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日々の出来事だとかなんとか・・・創作だとか -2007/6/7



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願いは叶わない
クリスマスに雪は降らないし誰も帰ってこない
音を立て跳ね返ったコインの定めた未来は裏側で
数字だけが回転してその顔を見ることも叶わない。
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満開を過ぎて朽ちるばかりの薔薇のようなクリスマスムードの中で、
俺は花を選ぶ男に付き合っている。

血のような赤と夜のような青い薔薇を選び花束に誂える男の横顔は、
いつものように何を考えているのか分からない。

「ところでだけど」

最初に口火を切ったのは俺だった。

「……何で笑ってられるの?俺にはわからない。」

俺と買い物をしようなどと言い出したときには目元がはれぼったく、
それを隠すように色の入ったレンズの眼鏡をかけていた。

それだというのにこの男はいつもと変わらぬ風情で笑っていられる。
むしろ晴れがましく、穏やかでさえある。
俺にはそれが理解できなかった。

「終わったからだよ。そう、終わったから。」

好きな人が居る、ということは聞いたことがある。
名前は教えてはくれなかったし、俺も余り興味がなかった。

「もう悩む必要もないしね、それに正直なところ似合いの二人だ。祝福しない理由もない。」

「好きだったんじゃないの?」

「好きだったよ。今でも好きだ。でもね、結局のところ身を引くしかなかったのさ。」

あっけらかんと言い、歯を見せて笑う。
それはもう楽しそうな調子でだ。

「私は今以上に彼女に入れ込むことはないだろうし、彼女が居なくても何とかやっていけるだろう。
 冷静な打算の上で彼女に迫る危機に共に立ち向かうことも出来るし、同時に彼女を見捨てることだって出来る。
 いやもう、本当に居ても立ってもいられないくらい好きなんだけど、でも真実としてはこうして居ても立っても居られてしまうんだよ。
 表立って取り乱すこともしないし、それどころか腹の底では諦めてる。」

「つまりその程度、と。」

「うん、そうなるね。それは失礼なことだと思っておきながらそうせざるをえない。
 つまりはね、彼女である必要さえないのかも。
 今すぐ取り乱しなさいといわれれば取り乱すことはできるけども、それは腹の底からじゃない。」

変幻自在で同時に不変の外装が、花弁のように一枚ずつ落ちていく錯覚。
つまり腹の底を見せたフリ。
お決まりの手法で巧みに自分を演じるその男は最後にそう言った。

「つまりこの恋は叶うことがない。叶えるために必要なものが足りないんだ。」

己の実力でさえ俺は努力で埋め合わせるだろう。
例え足りないとしても、血を吐きながらでも。
しかしこの男は降りたのだ。自分の何かを失うということから。
足りないとすればそれだ。

「ずるいね。」

「そう、私はとってもズルい。」

何を言ったとて届くことはないだろう。
俺の言葉を棘のない薔薇をもてあそぶように手にして、ははあと吟味できる男だ。
そこにこめられた攻撃はまるで意に介さない。
そして愛の言葉でさえもそのようにもてあそぶ。
なんとも安くて、なるほどだから恋をする資格もない。

「自分の血で何かをあがなったことがあるの?」

「ないよ。そこまでして必要なものはこの世の中にない。」

一度縊っても甘んじて死を受け入れるであろうこの男には時々殺意にも似たなにかを覚える。

俺が全てに対して抱く、喩うなら黒薔薇のような渇望と対を成すように、
彼の白い手袋に覆われた左手では黄色の薔薇が揺れていた。
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