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日々の出来事だとかなんとか・・・創作だとか -2007/6/7



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吟遊は一人さまよいあるくばかりだった。

腕のなかには金属パイプを複雑に折り曲げた楽器が一つあるきりで、
それのために水を少し含ませた綿を与えるほかには何の持ち物もない。


ト音記号、という記号がある。
それの曲線を極端に誇張したようなパイプには、
ところどころに一ミリほどしかない無数の蟲が詰まっている。
それの羽音か何かがぶんぶんと共鳴して、独特の音色を奏でるのだ。

グラスハーモニカが一番近い音色だろうか。

吟遊はそれにあわせてスキャットを歌うばかりで、
全くなんの伝承も歌うことはない。
故に彼は「吟遊」であり、詩人ではなかった。

言葉に悲しみを託したがゆえ、
その重みに天秤棒が折れるようにその言葉を失ったのだ。
海の水を秤にかけるようなものだ。
吟遊になるものの悲しみは汲んで尽きることがない。
なぜなら彼らは大いなる胸のうちにすべてを湛えているからだ。

みな吟遊はそういう生き物と決まっている。
そう、この男は間違いなく吟遊なのだ。
皆一様に悲しい犬のような顔をして人の為に歌い続けるが、
報われることなどひとつもないのだ。なぜなら彼らが吟遊であるから。


砂漠を歌いながらゆっくりと進むたびその楽器が金色の砂の上に緩やかに音紋を描き、
そうして風が吹くたび鮮やかな風紋にかき消される。
そうしてあとにはなにものこらない。

つまり、吟遊というものは、そういう生き物なのである。
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